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interview

インタビュー

社員の離職を防ぐ「リテンションマネジメント」の施策とは?
〜青山学院山本教授インタビュー(後編)〜

(前編)では社員の離職を防ぐための施策についてご紹介いたしました。後編では、その中でさらに若手社員、女性社員の離職を防ぐための施策についてお話を伺いましたので、ご紹介いたします。

■ 山本教授プロフィール
青山学院大学経営学部 兼 大学院経営学研究科教授
早稲田大学政治経済学部卒業、その後、銀行などに勤務、大学院を経て、現職、著書、「人材定着のマネジメント―経営組織のリテンション研究―」「昇進の研究―キャリア・プラトー現象の観点から―」「転職とキャリアの研究―組織間キャリア発達の観点から―」「自分のキャリアを磨く方法―あなたの評価が低い理由―」「「中だるみ社員」の罠」。
日本労務学会賞、青山学術褒章、経営科学文献賞を受賞。

若手社員のリテンションマネジメントは
「入社前のコミュニケーション」から

〜新入社員の中にも、「仕事とプライベートは切り分けたい」と、積極的なコミュニケーションを好まない人もいます。そのような社員にどう接していいのか分からない先輩社員もいると思うのですが、どういう施策が効果的でしょうか?〜

山本氏:会社に入る前の内定時点でのフォローが大切ですね。社会学の用語では、組織人になることを、“組織社会化”といい、内定中で入社までの時期のことを“予期的社会化“といいます。“予期的社会化”とは、この場合、これから入る会社や組織のことについて前もって学習し、社会人としての準備をしていくことですね。その考え方でいうと、ある会社に内定をして、4月から入社するのであれば、本来は“自分が会社の一員になる”という自覚を持って勉強したり準備したりするものなんです。

しかし、会社でのコミュニケーションに消極的で、仕事とプライベートを必要以上に分けようとする方は、組織社会化というところがあまり進んでいない人なのだと思います。会社では、そのようなタイプの人がいることを前提にして内定時期のフォローをすべきですね。事前に先輩などと交流を深めたり、気楽に自由に集まれる場を作ったりすることがおすすめです。内定者の方は会社のこと、会社側は内定者のことを把握していく時間を作るよう意識して場をつくることが求められます。

「辞めないでおこう」と思う理由に“人とのつながり”がある。
その絆を会社の中でどれくらい作れるか

新入社員には“歳の近い先輩”とのコミュニケーションを増やすことが効果的

〜気楽に自由に集まれる場を作る際、若手新入社員の方にとっては、どのような立場の方と交流できると良いのでしょうか?〜

山本氏:先程(前編)もお話しした美容室チェーン店での例なのですが、こちらでは、美容関連の専門学校から内定者を出しています。その専門学校にいる学生に、1、2年上の先輩が教えに行くんですね。ヘアセットをお互いでやってみたり、その様子をインスタで投稿したり、読者モデルとして活躍してもらったりしているんです。意識的にほとんど歳の離れていない先輩と行うことがポイントです。

入社した後はブラザーシスター制度を用意し、違う部署で、年齢が近い層の先輩をつけることなどが良いと思います。話す内容としては“失敗談”などの経験です。「私もすごい失敗したんだよ」と話すことで、安心し、心理的な要求水準を下げることができています。

※ブラザーシスター制度とは:主に新入社員に対して歳の近い先輩を担当させ、職場上の相談や実務の指導を行う制度

〜年齢が近い先輩との交流が、新入社員の成長を促すようなこともあるのでしょうか?〜

山本氏:そのような成長を促すためには、前提としてスキルの見える化をしておくことも大事ですね。

ある新潟の旅館の事例をお話しすると、従業員の配膳や接客などの技能スキルを見える化しているんですね。自分ができるようになったことが増えると、スタンプが増えるようになっています。その状況がオープンにされているため、「先輩に近づいてきたな」とか、「毎月1つ増えているな」というようなことが実感でき、励みになるようです。

“成長実感”というのは良く聞きますよね、それに対して、“成長予感”という言葉があります(※)。これは、「まだ成長していないけど、あともうちょっとやれば、先輩みたいになれるかもしれない」というイメージが持てることをいいます。そのためには先輩との接点をつくることも大事ですが、その先輩たちがイキイキしていることも重要です。

2年目になったから放置するのではなく、そのような先輩たちへの教育も引き続き必要です。1年目のお手本になるのは2〜3年目です。ちゃんと仕事ができていて、イキイキしていて、コミュニケーションがとれる存在であれば1年目の人がまず目指す姿が明確になり、「頑張ろう」という気持ちが生まれるのではないかと思います。

(※)【参考】酒井 穣(2010)『日本で最も人材を育成する会社』(光文社) 

同期のつながりが離職率を下げることも

〜確かに、1〜2歳しか離れていないと新入社員も接しやすく、成長した自分の姿をイメージしやすいですね。他に若手社員のリテンションに効果的なコミュニケーション方法はあるのでしょうか?〜

山本氏:同期とのコミュニケーションですね。

新入社員の方は、研修の機会も多いと思いますので、入社後半年くらいは毎月本社に新入社員を継続的に集めたり、意識的に同期同士の接点を半年〜1年かけて作るようにすると良いと思います。

配属後の部署で人間関係がうまくいかない時にも、同期に話せたり、自分の部署から少し離れることができる相手が会社にいることは非常に重要です。先程のブラザーシスター制度なども同じですが、同期や歳の近い人同士を近づけてお花見に行ったり鍋パーティーをしたりするのは、有効なリテンション施策です。

「今までの付き合い方の延長でいいんだ」という場を用意してあげると良いですね。

〜なるほど、そういう点では、毎年新卒採用をしていくということにも意味があるかもしれませんね〜

山本氏:育成の連鎖が途切れないようにしたいですね。

5年以上新入社員と離れてしまうと、大きく差を感じてしまうと思います。できれば毎年、自分の会社・部署に誰かが配属されるような環境が理想的です。新入社員は、すぐに社会に慣れるわけではないので、今までの価値観の延長で色々なことを考えます。

そのため、仕事に対する文句や不満が出やすいところがあります。そのような気持ちに対して、歳が離れた上の人しかいないと、説教してしまったりして、お互い理解し合うのがなかなか難しいことがあります。

ある女性をインタビューした際、会社を辞めなかった理由は、「同期に対するライバル意識」だと伺ったことがあります。その会社では、新入社員の研修は4ヶ月間、集合研修で行っていたのが大きかったと思いますね。

即戦力として活躍してもらうためにすぐに現場に配属することもありますが、同期のつながりを強めるという点では長く集合研修をすることをおすすめしています。

他のインタビューでも、「会社や上司に対する不信感があったが、同僚や先輩がいるからこそ続けられた」という話を聞きました。辞めたい理由がたくさんあったとしても、ただ1つの辞めたくない理由が引き留めることもあります。

この方の場合は、それが“人とのつながり”だったんだと思いますが、そのような人は多いのではないでしょうか。

女性が辞めない会社にするには制度などの整備だけでなく、
会社の「理解と協力」が必要

制度をつくるだけでなく、きめ細やかな制度設計を

〜女性活躍の推進が働き方改革の中にも盛り込まれていますが、女性の離職を防ぐ施策にはどんなものがあるのでしょうか?〜

山本氏:まずはやはりコミュニケーションをちゃんととることです。あとは福利厚生制度ですね。

福利厚生は手厚くすればするほどある程度の効果は出ると思います。例えば、出産・育児についての制度です。時短勤務は未就学児までという会社が多いと思いますが、実態を考えると小学生の間も時短勤務が使える方が良いと思います。小1の壁という言葉があるように、小学校に進学してからの方が実は大変で、結局そこで退職してしまう方もいますしね。

ただ、制度を整えればいいという問題ではなく、きめ細やかな対応が要求されていくと思います。

例えば有給を時間単位で分割して利用できるとか、個々の事情に合うよう柔軟に対応できる会社にしていけると良いですね。仕事と育児を両立する女性への調査では、会社に求めているのは環境だけでなく、上司や同僚の“理解と協力”なんです。

育児や介護などで休む時に申し訳ない気持ちにさせない雰囲気をどう作っていくかが大切です。職場の風土、特に上長やトップがそこに理解を示していないとなかなか変わらないと思います。

【参考】仕事と育児の両立のために職場で必要なことは、「休暇を取得しやすい職場環境」が68.4%、「上司の理解」(68.3%)、「同僚の理解・協力」(61.5%)と続き、職場の理解・協力を求めている。
女性の仕事と子育てに関する調査(公益財団法人地方経済総合研究所 2017年4月)

「女性」にこだわりすぎない制度・仕組みづくりを

シームレスに働ける環境づくりが、女性が活躍する会社につながる

〜女性の離職率を下げるための制度づくりを進めると、逆に職場の軋轢を生むきっかけになるのではないかと不安に思うことがあります。環境の整備はどのような視点を持ってすすめると良いのでしょうか?〜

山本氏:「女性のために」という前提をとっぱらって考える方が良いですね。

当たり前ですが、お互いの仕事、状況を知り、いつでも業務をまわせるようにしておくことが大事です。会議の開催時間も働き方にかかわらず「全員がいる時間にしかしない」という形にしても良いかもしれませんね。時短勤務の方がいない時間に定例の会議をやると、いつも時短勤務の方が申し訳なく思ったりしますしね。

職種や業界にもよりますが、性別、働く時間、場所などにかかわらず、誰かが何かの壁を感じたりしない、シームレスに働ける職場環境を作っていくと良いと思います。そういう環境がベースになっていると一部の女性が「一方的に保護されている」と社内の反発を生むこともおさえられます。

社内の制度などの「ハードの整備」と、そのハードを支える「考え方」の文化づくり、その上に、一人ひとりへのきめ細やかな理解とサポートが求められてきますね。

〜なるほど、女性にこだわらず、全員に対しての施策として考えることが大切なのですね。そうはいっても、早く離職率を改善したい……という場合、特効薬はあるんでしょうか?〜

山本氏:特効薬と言われると難しいんですが、まず1つ目はやはり賃金を上げるのが一番ですね。

今の人達は社会での自分の相場も意識していますので、それより少し賃金を高くするということは効果的です。報酬体系や評価の仕組みの透明性を上げて、しっかりと報酬を払う仕組みができれば良いと思います。

2つ目はキャリアパスを用意することです。

きちんと現在考えられるキャリアパス、それに対して足りないスキルや経験を示してあげることが大事です。特に女性は「今後のキャリアが見えない」という理由が離職につながる割合が多いです。

【参考】女性が仕事で悩んでいること、「給与・待遇(53%)」「今後のキャリア(45%)」「仕事内容(45%)」。
女性に聞く「仕事の悩み」調査 仕事の悩みトップ3は「給与」「仕事内容」「今後のキャリア」。ー『 エンウィメンズワーク 』ユーザーアンケート集計結果ー

山本氏:ただ、これも制度を用意するだけでは駄目ですね。その制度がちゃんと機能していなければなりません。

それは、「従業員がイキイキとしているかどうか」に表れてくると思います。先輩達がイキイキとしている姿が下に伝わっていき、連鎖していくことで離職率を改善することができると思います。

ただ、これはそんなに簡単にできることではありません。積み重ねていくものです。

効率的にリテンションマネジメントを進める方法

会社にとって辞めてほしくない人は誰なのか、ターゲットを絞る

〜全方位にやることがたくさんあり、優先順位もあるわけではない。やはり特効薬は無く、地道にやるしかない。ということなのでしょうか……?〜

山本氏:ターゲットを絞る必要はあると思います。

“会社にとって一番辞めてほしくない人”はだれなのか。新入社員なのか、管理職なのか、育休から復帰した女性社員なのか。ここは会社によって全く違うんです。

まずはどんな人に辞められると困るのか、どんな人に長く働いてほしいのかをトップが明確にイメージし、現場に伝える必要があります。

もちろん、従業員全員に環境づくりができればいいのですが、財務的にゆとりがある会社しか難しい場合もありますよね。

リテンション施策を進めていく3つのステップ

山本氏:リテンション施策を進めていく道は3つのステップがあります。

1つ目は、“ベストプラクティス”を探すこと。「こういうやり方が受け入れられるのか!」と、従業員に取り入れられそうなものをたくさん試していくこと。

2つ目は、自社の経営理念や行動憲章などに、しっかり組み込んでいくこと。トップもそうですが、現場に浸透しなければいけません。

3つ目は、制度のPDCAをまわすことです。制度は常に見直し、リテンションにきかない制度は減らしましょう。PDCAをまわすために、従業員満足度調査を行ったり、離職率などの指標を計測し、KPIを決めて数字を改善する意識を持つことが大事です。

あるインタビュー先の企業では、在職年数ではなく、“在職月数”を出していかに伸ばしていくか、こだわりを持ってやっていました。そのくらいの気持ちを持って進めなければなかなか成果が出ることはないでしょうね。

 

前編後編と併せて、従業員が辞めない会社を作るためのリテンションマネジメントについてお話をお伺いしました。

離職率低下のための施策はこれからますます重要になります。どんな人に長く活躍してもらいたいのか、どんな人が集まっている会社にしたいのか、改めて考えるとともに、そのような人が働きがいのある会社づくりは長期的な取り組みが必要だということが分かりました。

すでに様々な取り組みを始めている企業と、そうでない企業では、数年後の離職率や採用費に大きな差が出るのではないでしょうか。

山本先生、お話いただきありがとうございました!

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